不動産M&Aとは?─「売却額は同じでも手取りが変わる」賢い資産の手放し方

1. 不動産M&Aとは?基本的な考え方

不動産M&Aとは「法人の所有する不動産を目的物として行うM&A」のことを指します。

一般的にM&Aというと、ドラッグストアが同業を買収して大量仕入によりコストダウンを図ったり、食品スーパーが有名なスイーツ店を買収してコラボ商品を店頭で拡充させたりと、相乗効果を発揮させて成長を加速させるイメージがあるかと思います。

それに対して不動産M&Aは、手法としてはM&Aそのものですが、収益不動産や更地など、目的が不動産の取得に限定されたM&A(主に法人株式の売買)のことをいいます。聞き馴染みのない方も多いかもしれませんが、不動産を法人で所有する売り手にとっては新たな資産形成手法の一つとして、買い手にとっては事業戦略の一つとして徐々に認知され始めています。

一般的な不動産売買との大きな違いは、「法人ごと」売買する点にあります。そこで本記事では、両者の比較を通じて、その基本的な仕組みやメリットについて解説します。

2. 不動産売却と不動産M&A(株式譲渡)の比較

不動産M&Aは「不動産を売却する」のではなく、「不動産を所有する法人の株式を売却する」手法です。

「不動産を手放す」という行為は同じであっても、課税の構造が異なるために、最終的な手取りが大きく変わる可能性があり、特に不動産の売却対価をオーナー個人(株主)に還元させようとした際にその差が顕著となります。

オーナー個人が対価を受け取るという前提で、主な項目について比較した表を以下に掲載いたします。特に重要なのは、「誰が、何を、どのように売っているのか?」という視点です。

項目一般的な不動産売却不動産M&A(株式譲渡)
売り手法人(不動産の登記名義人)株主(法人の所有者)
売却する対象不動産法人の株式
オーナー個人が対価を受け取る際の課税(1) 課税事業者の場合は建物等に対して消費税10%
(2) 不動産の売却益に対して法人税約30%
(3) 法人から株主へ配当金を支払う際の所得税+住民税で最大55%の総合課税
3段階の課税
株式の譲渡益に対して約20%の分離課税
※ミニマムタックスの対象者を除く
課税は1回のみ
所有権の移転登記変更ありなし(法人が不動産を保持したまま)
登録免許税・不動産取得税発生発生しない
最終手取り大幅に減少しやすい比較的多く残る

3. 【シミュレーション】売却額10億円で手取り額はこう変わる!

先ほどの比較をより深く理解していただくために、実際の金額を用いたシミュレーションをお伝えいたします。なおシミュレーションに際して以下の前提条件を設定いたします。

【シミュレーションの前提条件】
  • 不動産の売却金額は 10億円
  • 取得原価は 5億円
  • 法人の銀行借入は 5億円
  • 不動産M&Aで株式譲渡した場合の価格を 5億円
    (不動産の価格は10億円、銀行借入は5億円のため、差額5億円での取引)
  • 土地と建物の割合は簿価・時価ともに半々
  • 株主は個人1名
  • 当該法人は課税事業者

これら前提条件でシミュレーションした結果、不動産売却と不動産M&Aそれぞれの実際の課税額と、最終的にオーナーの手取り額は以下のとおりです。

項目ケースA:法人が不動産を売却 → 利益を配当ケースB:株式を譲渡(不動産M&A)
売却収入10億円の現預金を取得株式譲渡益:5億円
消費税▲4,500万円
(建物5億円 × (1 - 1/1.1))
なし
法人税▲1億3,500万円
(含み益:4億5,500万円 × 30%)
なし
借入返済▲5億円なし
配当課税(個人)▲1億5,500万円
(現預金残3億2,000万円に対して)
なし
株式譲渡税なし▲1億円
(5億円 × 20.315%)
最終手取り約1億6,500万円約4億円

上記の2例を比較すると、同じ5億円の利益でも、不動産売買では手取り1億6,500万円、不動産M&Aなら手取り4億円と、倍以上の差が生じる結果となります。ケースA(一般的な不動産売買)では消費税・法人税・配当課税と手取りに関して3重の課税が発生します。一方でケースB(不動産M&A)では株式の譲渡についての約1億円の課税のみと、単一の課税でオーナー個人が対価を受け取ることが可能です。

課税面ではさらに、先の比較表にあるように、買い手側で登録免許税や不動産取得税などのコストも削減が可能です。

このように、不動産M&Aを選択することで、多数の税務的なメリットにより、手取り額が大幅に増える可能性があります。

なお、弊社では手取り額シミュレーションを無料で実施しております。一般的な不動産売却と不動産M&Aによる売却の場合を比較して、手取り額がいくら変わるかを計算いたしますので、ご興味のある方はぜひお問い合わせフォームよりご連絡ください。

4. 買い手にとってのメリット

ここまで、売り手にとっての不動産M&Aのメリットをお伝えしてきましたが、もちろん買い手にとっても数多くのメリットがあります。特に、税制活用により単年度における一括での損金算入の可能性や、不動産を活用した安定収益の獲得、さらには手元資金を温存したままの資産取得など、保険商品やオペレーティングリースとは一線を画す実務的な利点があります。全てご説明いたしますと、かなり長くなってしまいますので、ここでは主なメリットを3つご紹介いたします。

株式取得額の70%を損金算入できる税制活用の可能性がある

中小企業等が他社の株式を取得する際、「中小企業事業再編投資損失準備金制度」の活用により、取得額の70%を損金に算入できる可能性があります。例えば株式取得額10億円の場合、7億円の損金を進行期に一括で算入ができる可能性があります(※中小企業事業再編投資損失準備金制度の適用には要件がありますので、詳しくは顧問税理士にご確認ください)。

この制度を活用することで、取得額の大半を損金処理することができますが、あくまでも繰り延べのため5年の据置期間の後に、損金算入額の1/5ずつを5年間にわたって益金算入することとなります。このため、本制度は例えばオペレーションリースの満期時や、事業譲渡、不動産売却により一時的な特別利益が出た場合などに非常に有効です。これにより、資金調達と税務上のバランスを考慮した戦略的なM&Aが可能となり、将来的な資金計画の柔軟性が高まるという利点も見込めます。

借入の活用で、手元資金を減らさず買収できる可能性がある

不動産M&Aにおいても、通常の不動産売買と同様に、対象の不動産を担保とした借入を行える金融機関もあります。

その結果、保険商品やオペレーティングリースとは異なり、手元資金をあまり減らさずに法人を取得し、多額の損金を一括計上することが可能な場合があります。特に金利水準が低い現状においては、不動産という安定収益を生みだす資産の獲得とタックスプランニングの実現という両面で効果的な投資戦略となる事例が出てきています。

オペレーティングリースや保険商品と異なり、毎月不動産による収益を獲得できる

オペレーティングリースや一部の保険商品は、費用処理の柔軟性を活用することはできても、将来的な収益に直結しないことが多く、「支出型の対応」にとどまる傾向があります。

一方、不動産M&Aでは、対象会社が保有する不動産を取得することにより、継続的な収益(賃料収入)を確保することができます。これにより、法人の利益創出とインフレ対策としても効果的な不動産による資産形成を同時に実現することが可能になります。

また、将来的には不動産の売却や法人自体の再売却により、キャピタルゲインを見込める点も、不動産M&Aならではの魅力です。

5. 不動産M&Aで売却/買収するには?

不動産M&Aは言い換えるなら「不動産を保有する法人の株式を譲渡することで、実質的に不動産の所有権を移転する手法」です。目的に着目すると不動産売買に近しいですが、その取引の本質は「M&A」です。つまり、法務・税務・財務・事業分析など、複数の分野にまたがる高度な専門知識が求められるため、もし不動産M&Aで売却・買収を進められたい場合はM&AアドバイザーやM&A仲介会社に依頼をすることとなります。

しかしながらM&A仲介会社の多くは、製造業やサービス業、IT業、医療法人など、「事業の継承」や「事業再編」を目的としたM&Aを主に取り扱っているのが実情です。これらは、人材やノウハウ、販路などの経営資源を引き継ぐことが目的であり、不動産そのものの価値や取引構造に精通しているわけではありません。そのため、M&Aのスキーム設計やデューデリジェンスには一定のノウハウがあったとしても、不動産の評価や収益性の分析、さらには不動産固有の契約リスクや法規制への対応といった、不動産M&Aに固有の重要論点をカバーできないケースが少なくありません。

つまり、不動産を保有する法人を対象としたM&Aを成功させるためには、「不動産」と「M&A」の双方に高度な知見を持つ専門家による支援が不可欠です。

そこで私たち株式会社ストックフォルムは、不動産M&Aに特化したアドバイザリー業務を提供しています。不動産・税務・法務・財務の各分野に精通した専門家チームが、売り手・買い手双方にとって最も合理的で安全な取引を実現するため、一気通貫でサポートいたします。

不動産M&Aは専門性の高い領域であり、誰に相談するかが成否を大きく左右します。

貴社にとって最適な出口戦略・資産取得戦略を実現するためにも、ぜひ一度ご相談ください。